西湘地区No.5−3 豊かな箱根の湧水・酒匂川の水資源を利用する工場群 (南足柄市・小田原市)

(2009年2月作成)

 

1 水資源に恵まれた足柄平野

 足柄平野は水の豊かな平野である。酒匂川が形成した扇状地状の平野であることから、扇頂部で地下にしみ込んだ伏流水が、扇端部で地上に湧き出している。小田急線の駅名にある「富水(とみず)」は、湧水に富んだ地域を表す地名である。

 また、箱根の外輪山の溶岩にしみ込んだ水は、その下にある安山岩などの、水を通さない岩石(不透水層)との境界部分から、各地で湧き出している。その一つである箱根湯本の須雲川沿いのホテル天成園にある「玉簾(たまだれ)の滝」は、多くの観光客が訪れている。火山にしみ込んだ水は、長い時間をかけて麓から湧き出すことが知られており、三島市内の湧水や柿田川湧水群(静岡県駿東郡清水町)は富士山の湧き水として有名である。

 このため、県西地区の市町では上水道の水源を湧水に求めているところが大半である。かつては、酒匂川などの伏流水を水源としている箇所もあったが、現在ではあまり見られなくなった。


2 湧水を背景に創業した富士フイルム

 伊豆箱根鉄道大雄山線の「富士フィルム前」駅から15分ほど歩いた南足柄市狩野には、神奈川県で唯一、環境省の「平成の名水百選」に選ばれた「清左衛門(せいざえもん)地獄池」がある。箱根の外輪山にしみ込んだ水が湧き出しているもので、現在でも一日に1万3千トンもの湧水量がある。池の中央には厳島神社があり、周囲は湧水公園として整備されている。


写真1 清左衛門地獄池 写真の左側にあるのが厳島神社 冨士フイルムの水源地であることを示す看板がある。

(2009年撮影)

 

 この湧水に着目し、1934(昭和9)年に池の隣接地で創業したのが、富士フイルム(旧社名:冨士写真フイルム)足柄工場である。池からの水と共に工場敷地内からの湧水も利用している。

 一般に化学工場では、薬品の混合や希釈によって生じる反応熱の冷却や、薬剤を洗浄するために水を大量に使うことが多い。写真用フィルムや現像薬品の製造のために使う、良質で大量の水を確保できることがこの工場の立地条件となっていた。

 しかし今日では、富士フィルムの売上高に占める写真関連の売り上げ比率は、2割(2008年3月期)ほどしかなく、しかもこれにはデジタルカメラ本体等も含まれている。このため、現在足柄工場で使われる水の多くは主に空調用に利用されている。



写真2 富士フイルム足柄工場 (2009年撮影)


3 豊かな水資源が支える南足柄市・小田原市の工場群

 このような水資源を背景に立地している工場は他にもある。南足柄市には、2002(平成14)年にアサヒビール神奈川工場が進出した。県の規制で、工場内に井戸を掘ることができないため、工場の進出にあわせ南足柄市は、400mほど離れた場所に工場に供給する上水道の水源を掘った。

 また小田原市のJR東海道線の沿線には、カネボウ化粧品の主力工場となっている小田原事業所(1969年操業)や、明治製菓小田原工場(1940年操業「イソジン」を始めとする医薬品の製造工場)などの化学工場がある。化粧品も薬品も典型的な化学工業であり、先述のように多くの水を必要としている。

 またJR鴨宮駅近くには、主に紙幣の製造を製紙から印刷まで行っている、独立行政法人国立印刷局の小田原工場がある。紙の製造過程で大量の水を使用することから、この地域に立地したもので、静岡県富士市や北海道苫小牧市といった全国有数の製紙の街は、いずれも水の豊かな地域にある。印刷局工場内の桜並木は有名で、桜の季節には一般開放もされている。



写真3 アサヒビール神奈川工場(南足柄市) (2009年撮影)



写真4 カネボウ化粧品小田原事業場 手前は酒匂川 (2009年撮影)

                           【鶴嶺高校 能勢博之】

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