県央・県北地区№6-10     完成から10年・首都圏最大級の宮ヶ瀬ダム (相模原市津久井町・愛甲郡愛川町半原地先)


(2009年3月作成)

 

1.全国1位 ダム来訪者総数157万人 

 国土交通省と水資源機構(独立行政法人)が直接管理している全国102のダムを対象に行っている「河川水辺の国勢調査」で2006年度の宮ヶ瀬ダムの総利用者数は年間157万人で全国第1位となった。第2位の御所ダム(岩手県)約96万人、第3位の日吉ダム(京都)約55万人を大きく引き離した。この調査は1991年から3年ごとに実施されており、前回に続き連続1位となった。

来訪者の利用形態としては「散策」が最も多く、ジョギングなどの「スポーツ」や様々な「イベント」が続く。宮ヶ瀬ダムの利用者が多い理由として、東京・横浜・川崎から日帰り圏内にあること、湖畔での体験イベント、野外学習の場としての人気、自然公園での散策などがあげられる。

 宮ヶ瀬湖周辺はダムサイト地区、宮ヶ瀬湖畔地区、鳥居原地区の3つの拠点からなり、県・地元自治体を中心に「自然公園的機能も持つ都市近郊リゾート地」としてダム周辺整備を行っていることがダム利用者の増加につながっている。


 2.中津渓谷に威容を見せる重力式宮ヶ瀬ダム

 中津川渓谷入り口にその威容をみせる宮ヶ瀬ダムは洪水調節・治水・水道用水・水力発電のための総合的な水管理を目的として、工事着工から8年かけて1995年に完成した相模原市・愛川町・清川村にまたがる県内最大のダム湖である(箱根の芦ノ湖の貯水量に匹敵)。

堤高156m、堤頂長約400mの「宮ヶ瀬ダム」は、堤体積206万㎥、重力式コンクリートダムとしては国内最大規模のダムで、使用したコンクリート量は青森から大阪までの2車線道路分に相当する。ダム直下には大小2つの発電所をもち、最大出力25万kwを発電するほか、宮ヶ瀬ダムと道志川の間には2本の「道志導水路」、「津久井導水路」を設け、相模川本流の相模ダム(1947年完成 城山湖)、城山ダム(1965年完成 津久井湖)を連結し、相模川の水資源の有効活用を図っている。宮ヶ瀬湖は集水面積や流入量は小さいが、相模川流域の自治体だけでなく、横浜・川崎市にも水道水を供給する県の貴重な水がめとなっている。


 3.湖底に沈んだ宮ヶ瀬集落

 人口約3,500人の清川村は、総面積(71.3平方㎞)のわずか1割が可住地面積で、残り9割は森林が占めるという県内唯一の山里の村である。1996年には「全国水の郷百選」に認定され、村づくりのキャッチフレーズを「水と緑の心の源流郷」としている。

 厚木・伊勢原市方面から県道64号線を北上、清川村煤ヶ谷を通り過ぎる辺りに標高約300mの土山峠がある。この峠から北流する川音川や中津川流域に暮らす宮ヶ瀬地区住民がダム建設に伴い、住みなれた土地を後にして移転を余儀なくされたのであった。それまでは、稲作・養蚕業・野菜作り・炭焼き・林業などで生計をたてていたこの集落は3つの地区に各々別れた。

約200世帯は厚木市中荻野に新たに造成された「宮の里」へ移転、残る70世帯は村内の「北原地区」(A代替地区 住宅地)、「春の木丸地区」(B代替地 商業地)に残った。「移転に決して反対はしないが、いい気持ちはしない。犠牲に耐える。一人ひとりの生活にとってこれからが大変なんだ。」と行政の損失補償の調印時に話す住民たち言葉に、先祖代々の土地から離れて生きて行く彼らの複雑な心境がしのばれる。


 4.清川村、財政力にゆとり 観光地化すすむ中で

 村民の移転から20年、宮ヶ瀬の集落が湖底に沈んでから10余年、現在宮ヶ瀬湖周辺の整備は進み、清川村を訪れる観光客数は、日帰り客が多いとはいえ年間300万人に達している。

そして、宮ヶ瀬ダム建設後、清川村の自主財源比率は高まり、2008年度の清川村の一般会計予算歳入額約25億円の60%は村税(14億円)によるものである。また、村税の70%(10億円)はダム所在地への交付金(ダムからの固定資産税)などが占め、このことによって、清川村は自主財源比率(86%)の極めて高い自治体となっている。現在、「新清川村総合計画」(1994年~2013年)を策定し、高齢化・環境問題・産業振興など新たな村づくり事業に取り組んでいる。

休日ともなれば都会からの多くの観光客で湖畔は賑わいをみせている。その宮ヶ瀬湖を望む「A代替地」の一角には、湖底に水没した宮ヶ瀬集落の野辺に立っていた多くの石像が「宮ヶ瀬石像群」として集められ、静かにたたずんでいる。

【前厚木西高校教諭 豊 雅昭】



写真1 堤高156m 中津渓谷にそそり立つ巨大な宮ヶ瀬ダム。新石小屋橋も見える。


写真2 宮ヶ瀬ダム・水とエネルギー館はダムサイトの横に建てられた総合案内施設。

館内にはダムと人々との関わりを学べるウォーターミュージアムがある。エネルギー館前には宮ヶ瀬湖遊覧船乗り場やダムの維持・管理のため堤体外部を点検のため活用されたインクライン(昇降設備)もあり、ダム直下まで降りることができる。


「新清川村発足50年記念要覧」より作成 2006年発行


「当初予算(案)概要」清川村より作成  2008年発行




写真3 宮ヶ瀬湖畔とA代替地(住宅地)・B代替地(商業地) 

湖の水辺を利用した宮ヶ瀬公園。正面は住宅地区であるが、右手前にはビジターセンター、博物館、レストラン、沢山のお土産店など商業地区があり、宮ヶ瀬観光の中心スポットを形成している。


※写真はいずれも2008年夏


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