湘南地区 No.4-10  鎌倉のメインルート・若宮大路の景観形成   (鎌倉市)

2009年9月作成

 

1 景観に配慮した自動販売機

  由比ヶ浜から鶴岡八幡宮へと延びる鎌倉のメインストリート「若宮大路」を歩くと、ジュースの自動販売機(以下、自販機)が、普通と何か違うことに気付かされる。写真1は若宮大路の自販機だが、右がコカコーラ、左がヤクルトのものである。メーカーが異なるのに外側の色が薄いベージュで統一されており、メーカーの大きなロゴは側面を含めて外側の鉄板部分にはない。ところが、若宮大路から一本入った小町通りにあるコカコーラ社の自販機(写真2)は一般的なもので、同じ会社のもととは思えないほど差がある。

 これは1つの例だが、若宮大路は景観を重視したまちづくりが進められている。


  写真1 若宮大路の自販機             写真2 小町通りの自販機


2 鎌倉市の景観形成と若宮大路

 1964(昭和39)年に鶴岡八幡宮の裏にあたる御谷(おやつ)で住宅開発の計画が持ち上がると、作家の大佛次郎が自然保護の大切さとイギリスのナショナルトラスト運動を紹介する文を朝日新聞に寄稿した。このことが鎌倉市民による募金と御谷地区の土地の買い取りにつながった。このことが日本のナショナルトラスト運動の先駆けとなり、さらには1966(昭和41)年に古都保存法が制定されるきっかけとなった。

 このように早くから景観について市民の意識が高い鎌倉市では、2004(平成16)年に国が景観法を制定するよりも早い1996年に「鎌倉市都市景観条例」を制定している。国の景観法は、紳士協定でしかなかった以前の景観条例に実効性を持たせるための法律で、景観行政団体(景観行政を実施する地方自治体)の計画や条例に実効性や法的拘束力を持たせる根拠となっている。これによって、計画に合わない建築などに対し、以前はお願いをするだけであったのに対し、法的な根拠を持って計画変更などを要求できるようになった。

 鎌倉市では、景観条例を数度にわたり改正しているほか、2007年には市域を21に分けてその区域ごとに景観形成の方針や基準を細かく定める景観計画を策定した。その中でも若宮大路はその中心として詳細な規定があり、建物は中層以下に制限するとともに、電線の地中化を行うことでスカイライン(建築物などと、周囲の風景や空との境界線)を整えるとともに、店舗・看板・構造物の色彩を抑え、店舗の入口部分には近隣の店舗との連続性を意識した上で自然素材や伝統素材を使うことを求めるなど、統一性のある落ち着いた町並みを形成しようとしている。(写真3)

 比較的大きい店舗もある若宮大路に比べ、西側に平行して延びる小町通り(写真4)は道幅も狭く小規模な飲食店や土産物を扱う店舗が並んでいる。小町通りは、電線は頭上を通り、店舗の統一性もなく、自販機も一般的な物であり、景観への配慮は若宮大路に比べるとあまりなされていないように見受けられる。しかし、雑多な分だけ庶民的な感じがして、若宮大路と好対照となっている。


写真3 電線の地中化が行われ、すっきりした印象を与える若宮大路



写真4 雑多な感じが魅力の小町通り


3 若宮大路のレトロな建物

鎌倉市では、洋風建築物の保存と活用のために「景観重要建築物等」という制度を設けている。平成8年には洋風建築物に加えて和風建築物・門・塀などの工作物も対象となった。若宮大路にある景観重要建築物等では、昭和初期に建造され現役で使用されている三河屋本店(写真4)と湯浅物産館(元々は鎌倉名産であった貝細工の製造加工・卸売りの店であった)(写真5)が目にとまる。三河屋本店は1927(昭和2)年に建てられた出桁造りの店舗で、奥には蔵や商品の運搬に使用されたトロッコも残っているという。湯浅物産館は、1936(昭和11)年に鎌倉名産であった貝細工の製造加工・卸売りの店として建てられた看板建築の店舗である。


写真5 出桁造りの三河屋本店



写真6 看板建築の湯浅物産館


写真はすべて2009年撮影

                                                      【鶴嶺高校 能勢博之】

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