川崎地区No2-6   川崎エコタウン(1)エコタウン構想とは?(川崎区)

2009年4月作成

 

1.エコタウン構想

 1992年、ブラジルのリオデジャネイロで、国連環境開発会議(地球サミット)が開催され、「持続可能な開発」を実現するための行動計画「アジェンダ21」が採択された。この採択により、参加各国は「将来の世代が豊かで幸福に生きられる環境を残すためには、20世紀型の資源やエネルギーの浪費型社会では持たない」という認識を共有した。アジェンダ21の行動計画「持続可能な消費計画」では、環境への負荷の少ないエネルギーの利用や、廃棄物の削減・再資源化を求めている。環境問題に対する世界的な潮流の中、日本では1997(平成9)年に容器包装リサイクル法が施行され、その後も相次いで、家電、建設資材、自動車などのリサイクル法が制定・施行されている。

 容器包装リサイクル法施行と同じ1997年、当時の通産省と環境庁は、地域内での廃棄物を資源化することで、ゴミを出さない町作り(ゼロエミッション化)を実現させるために、「エコタウン事業」(正式名称は「環境調和型まちづくり基本構想」)をスタートさせた。そして、川崎市臨海部(川崎区の産業道路より海岸部よりの地域)は、福岡県北九州市、長野県飯田市と並びエコタウン承認第1号となった。川崎市のHPなどによれば、「川崎エコタウン構想は、川崎臨海部全体(約2,800ヘクタール)を対象エリアとしており、臨海部における高い企業集積と環境技術の蓄積を活かし、各企業や市内から発生する廃棄物や エネルギーを企業間で循環・有効利用することにより、環境と産業が調和したまちづくりの実現を目指すものです。」としている。

  なお、2006年1月現在、全国26地域のエコタウンプランが承認され、62施設に対し財政補助が行われている。


2.川崎ゼロ・エミッション工業団地

 川崎エコタウン構想の中で、最も先進的な取り組みが行なわれているのが、川崎ゼロ・エミッション工業団地(以下ゼロ・エミ団地)である。

 ゼロ・エミ団地は、川崎区水江町の埋立地にある。団地の敷地は、ゼロ・エミ団地が造成される前まで、日本鋼管(現JFE)京浜製鉄所水江地区の原料置き場であった。かつては、神奈川臨海鉄道水江線の線路が引き込まれ、埼玉県秩父などから輸送された石灰石が、うずたかく積まれていた。



写真1 日本鋼管の石灰石置き場(1989年撮影)



写真2 第一セメント(1989年撮影)


 現在では、輸送コスト・効率や、原量確保などの理由から、近県の輸送はトラックに、また日本鋼管は大分県津久見など、第一セメントは北海道の上磯・峩朗鉱山からの輸送を船舶に切り替えた。かつて貨車輸送の名物であった、南武線を通り神奈川臨海鉄道に至る、石灰石輸送のための専用貨車を、今では見ることがなくなった。その後、遊休地化した日本鋼管の敷地を川崎市が買い取り造成したのが、ゼロ・エミ工業団地である。エコタウン構想の最初の指定が、川崎、北九州、飯田など産業の空洞化が進む工業都市であることから考えると、国・自治体による企業救済と新しい産業の誘致が目的であることが、構想からは透けて見える。

 川崎市臨海部のエコタウン承認が1997年7月、川崎市ゼロ・エミッション工業団地協同組合設立が99年1月、2000年1月にはゼロ・エミ工業団地の造成が始まり、2002年に工業団地内の各企業の操業が開始された。2009年3月現在、金属加工、製紙、メッキ、鍛造業など全14社が立地している。



写真3 ゼロ・エミ工業団地の様子(2005年7月撮影)


3.先進的な活動を続けるコアレックス東京工場

 ゼロ・エミ工業団地は、その名の通りゼロ・エミション=廃棄物ゼロを目指している。工場からは製品製造の過程で、必ず何らかの産業廃棄物が発生する。だが、ゼロ・エミ団地では廃棄物を再資源化し、団地内あるいは川崎エコタウン内で循環させることで、廃棄物を域外に出さない仕組み作りを参加企業に求めている。目標達成のために、団地内の各企業は、様々な先駆的取り組みを行っている。中でも注目されるのが、再生紙のみからトイレットペーパーを製造する、コアレックス東京工場である。

 高度経済成長期において、製紙・パルプ業は、田子の浦港のヘドロ問題に象徴されるように、水を大量に消費し、化学薬品を使い、廃棄物を垂れ流す代表的な公害型産業であった。続く、「地球環境問題の時代」では、木材を大量消費することから、森林破壊の元凶ともされた。だが、コアレックスの工場を見学すると、旧来型の製紙工場のイメージが覆される。

 同社が使用する原料は、すべて再生紙で、しかも再生の難しいあらゆる紙類を原料としている。たとえば、アルミコーティングされたブリックパックは、従来であれば焼却処分されていたが、「パルプ100%」との理由から、同社の使用原料としては最も上質な部類の原料となる。機密書類等も、ファイルの金具や綴じ紐、プラスチック類が付いた状態で段ボール箱ごと処理される。紙と金属、プラスチックなどは再生の過程で完全に分離され、金属類は周辺企業の原料としてリサイクルされる。また再生できない可燃性の廃棄物は焼却され、焼却の熱を乾燥の工程に利用し、さらに焼却灰はコンクリートの原料として(株)デイ・シイ(旧第一セメント)に送られる。

 もっとも驚くのは、工業用水である。製紙業には大量のしかもきれいな水が必要とされるが、同社は下水処理場から供給される終末処理水を使用している。使用にあたっては、浄化処理を施して使用されるが、最終的な排水も、入ってきたとき以上にきれいな状態で海に返されている。

 もちろん、再生紙による製造は、製紙・パルプ産業があってはじめて成り立つのであるが、同社の社員が言う「水に流すものを木材から作る必要があるか」という問いかけには大いに共感できる。なお、コアレックスは、もともとはプラントメーカーである三栄レギュレーターが、製紙プラントを販売するためのモデル工場として建設した。また、トイレットペーパーの販売利益だけでなく、機密文書の処理費用も大きな収入源である。原料を再生品に頼るリサイクル業は、原料が安価であることが前提である。だが、原料価格は常に変動しているため、複数の収入源が無いと利潤の確保は苦しくなる。多角的に収益を確保する同社は、リサイクル産業の経営の面からも注目される。

【釜利谷高校 井上 達也】

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